登場の背景と概要
国鉄は1961年に大都市近郊の非電化路線向けにキハ35系通勤形気動車を開発しました。キハ35系はトイレ付きのキハ35形とトイレなしのキハ36形で構成されます。
車体
幅2929mmの狭幅車体を持つ普通鋼製で、車体外板と屋根板は板厚1.6mm、先頭部は板厚3.2mmの鋼板を使用しました。先頭車前頭部は中央部に貫通扉を設置し、その左右に平面ガラスを採用した前面窓が取り付けられています。貫通扉上に前照灯、前面窓の下方には尾灯が取り付けられています。運転席前面窓上には行先表示幕が取り付けられています。車体側面には1300mm幅のステップ付両開自動扉が3箇所設置されています。扉設置位置にステップ設置することで台枠に切欠が生じるため、扉を外吊式にして戸袋をなくすことでこの切欠を最小にするとともに、ステップ部を補強することで強度を確保しています。ドアレールは車体外部に設けられ、レールカバーが幕板部に取り付けられました。扉間には930mm幅の2段上昇式窓が中央に2箇所、ドア脇に615mm幅の上段下降下段上昇窓が取り付けられています。ドア脇の窓は扉開閉時危険なため、下段窓の開口寸法は50mm、上段は150mmとし、下段には保護棒が取り付けられました。戸閉装置はTK6Aでステップ横の床下に取り付けられています。屋根上にはグローブ形通風器が取り付けられました。走行機関の排気管は運転室内に取り付けられています。連結器は密着式自動連結器で、ゴム緩衝器RD3が使用されています。車体塗装はクリーム色で、窓より下を朱色としました。
台車
台車は動台車がDT22C、付随台車がTR51Bで、枕バネにコイルバネを採用し、軸箱支持方式はウイングバネ式ペデスタル方式です。動台車の歯数比は2.976としました。通勤用の荷重条件から車軸径を175mmと太くしました。基礎ブレーキ装置は片押式踏面ブレーキとしています。
走行機器及び補機
クランク室を一体形とした出力が180PSのDMH17H横型機関が車体に対して防振ゴムを介して取り付けられています。液体変速機は乾式単板クラッチを採用した3段6要素のリスホルム・スミス式の振興造機製TC2Aと、湿式多板クラッチを採用した新潟コンバータ製DF115Aで、コンバータオイルが従来の軽油から、トルクコンバータ油に変更されました。TC2AとDF115Aは交換を容易にするため、放熱用油回路の車体との接続位置、電磁弁箱が共通化されています。床下には機関により駆動されるC600空気圧縮機が取り付けられています。ブレーキはDA空気ブレーキ装置です。
客室設備
客室設備はロングシートで、室内照明は40Wの蛍光灯を2列に配置しています。中間車として使用する場合は、運転席側のみ客室仕切開き戸で閉鎖、助手席側は客室として開放できるようになっています。暖房は温水式が採用されています。キハ35形の車体後方には和式トイレが設置されており、トイレの向かいにはクロスシートが設置されています。
増備車
1962年8月より製造された車両から、寒冷地向けのキハ35形500番台が登場しました。キハ35形500番台はスノープラウが取り付けられ、通風器が押込形に変更されていることがキハ35形0番台と異なります。
1963年2月より製造された車両から、両運転台のキハ30形が登場しました。キハ35形0番台の後位にあるトイレ部を運転台に変更した構造となっています。
1963年4月には車体にステンレス鋼を取り入れた試作車キハ35形900番台が登場しました。車体は枕梁と機関吊梁を除く外板、梁、柱、台枠がステンレスとされ、外板はコルゲート加工が施されています。ドアレールカバーは車体強度確保の観点から、車体全長に取り付けられました。
1964年11月より製造された車両から、寒冷地向けのキハ30形500番台が登場しました。キハ30形500番台はスノープラウが取り付けられ、通風器が押込形に変更されていることがキハ30形0番台と異なります。
1966年7月より製造された車両から、先頭部の強度を向上するため、幌柱と隅柱を台枠に差し込む構造に変更しました。
1966年11月に製造された車両から、連結装置の緩衝装置がRD13に変更されました。
改造
国鉄
前照灯更新
前照灯に使用されている白熱灯をシールドビームに更新する工事が一部の車両に対して1973年以降に実施されました。
扉開閉ボタン取り付け
相模線、八高線、川越線で使用されている車両の室内、及び側扉外部に扉を開閉できるボタンを取り付ける工事が1972年より実施されました。
前面強化工事
踏切事故発生時の前頭部構体の損傷を最小にするため、前面腰板に4.5mm厚の鋼板を溶接し、その外側に厚さ6mmの鋼板でV形の箱状帯を溶接取り付けする改造が1975年以降に一部の車両に対して実施されました。
JR東日本
機関更新工事
JR東日本では1988年1月にDMH17に代わる更新用機関の試験を開始しましたが、その直後にキハ58系の火災事故が発生したことから、1990年1月より機関更新工事が開始されました。更新機関は300PSのカミンズ製のDMF14HZで、液体変速機や推進軸は既設流用のため出力250PSとしました。
JR西日本
キハ35系300番台
和田岬線で運転されていた客車列車が老朽化したため、加古川線で余剰となった車両を1990年に改造し、300番台に区分しました。キハ35系300番台はキハ35形300番台と機関を撤去したキクハ35形で構成されます。海側の扉は中央部を除いて撤去し溶接で埋められました。車内はトイレと海側の座席が撤去されました。
運用
キハ35系は1961年に26両が奈良機関区に投入され、関西線湊町-奈良を結ぶ快速、普通列車に使用されました。1962年には5両が亀山機関区に投入され、参宮線で使用されました。また、6両のキハ35形と31両のキハ36形が奈良機関区に投入され輸送力を増強しました。一方、千葉気動車区に2両のキハ35形と18両のキハ36形が投入され房総地区の普通列車に使用されました。また、越後・弥彦線管理所に23両のキハ35形500番台が投入され、弥彦線の普通列車に使用されました。更に亀山機関区、千葉気動車区、千葉気動車区木更津支区に15両のキハ30形が投入され、参宮線や久留里線で使用されました。
1963年には8両のキハ35形0番台と10両のキハ35形900番台が千葉気動車区に、12両のキハ35形0番台が多治見機関区に、7両のキハ30形が大宮機関区に投入され川越線で使用されました。
キハ35形0番台の奈良機関区と千葉気動車区への増備は1964年に続いたほか、姫路第一機関区、岡山機関区、城端線、氷見線用として高岡機関区、筑肥線用として東唐津機関区に投入されました。
1965年に新潟機関区、高崎機関区、茅ヶ崎機関区、福知山機関区、加古川機関区、小松島機関区、米子機関区、広島第二機関区、小郡機関区、厚狭機関区、長門機関区、竹下気動車区、直方気動車区、東唐津機関区にキハ35形やキハ30形が投入されました。
キハ35系は1966年まで増備が続けられ、新潟、関東地区のほか、西日本や九州地区の非電化路線の通勤輸送に使用されました。
1971年までに奈良と亀山の輸送力増強のため、各地からキハ35系が奈良機関区と亀山機関区に転属しました。1972年には内房線と外房線の電化が完成したため、余剰となったキハ35系は八高線や川越線の輸送力増強のため転属しました。1973年には関西線湊川-奈良間の電化完成により、余剰となったキハ35系は関西線亀山-奈良間、和歌山線、参宮線、紀勢線に転用されました。また東金線の電化開業により余剰となったキハ35系は加古川線、山陰線や筑豊線に転属しました。さらに、1974年の成田線成田-松岸間と鹿島線の電化により、余剰となったキハ35系は高崎、福知山、東唐津に転属しました。
しかし、1977年に登場したキハ47系により福知山のキハ35系が置き換えられ、八王子、伊勢、亀山、小郡、直方、東唐津に転属しました。さらに、1978年の紀勢線和歌山-新宮間の電化開業により、余剰となったキハ35系は加古川、竹下、直方に転属しました。1980年には草津線、桜井線、和歌山線王子-五条間の電化により、余剰となったキハ35系は和歌山、伊勢、木更津、東唐津に転属しました。
1984年の越後線と弥彦線弥彦-東三条の電化開業により余剰となったキハ35系500番台は、木更津、高崎、八王子に転属しました。また、奈良線と和歌山線も全線電化され、奈良と和歌山のキハ35系は亀山、伊勢に転属するとともに、弥彦線東三条-越後長沢間の廃止により、キハ35系500番台は5両が転属、11両が廃車となりました。
1987年の国鉄分割民営化に伴い、JR東日本に89両、JR東海に6両、JR西日本に30両、JR四国に4両、そしてJR九州に27両が継承されました。
JR東日本では、八高線、足尾線、久留里線、相模線で使用されていましたが、1991年の相模線電化開業により一部車両は八高線に転属し残りは廃車となりました。また、1996年の八高線八王子-高麗川間の電化開業、及び八高線高麗川-高崎間へのキハ110系投入により久留里線に転属した一部の車両を除き、廃車となりました。久留里線に最後まで残った車両も2012年にキハE130形100番台に置き換えられ、全車廃車となりました。
JR西日本では高山線、城端線、氷見線、関西線、加古川線、美祢線で使用されていましたが、高山線は1989年に、関西線は1990年に、加古川線は1991年に、美祢線は1995年に、城端線と氷見線は1996年にそれぞれ引退しました。加古川線で余剰となった車両のうち8両は1990年にキハ35系300番台に改造され、和田岬線で使用されましたが、2001年の和田岬線電化により廃車となりました。
JR四国では徳島地区で使用されていましたが、1990年に全車廃車となりました。
JR九州では筑豊線、篠栗線、長崎線、大村線で使用されましたが、1991年に全車廃車となりました。 |
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