8. 分割民営化の功罪

気が付けば、国鉄が分割民営化されて17年も経ってしまいました。国鉄分割を真剣に議論していた20年ほど前は、長距離列車の問題やサービス低下の問題が議論されていましたが、大まかに見るとこれらの心配は杞憂であったといえるでしょう。JR各社とも新車の開発に意欲的で、国鉄が分割民営化された1987年当時と比べて、車両の質、特にスピードアップが図られたダイヤなど、相対的に見て改善が進んでいると言えます。 特にJR東日本管轄以外の地域では、特に関西圏や中京圏を主として地域分割されたメリットが存分に出てきています。223系や313系と言った新しい近郊形電車は、国鉄時代では望むこともできず、関西圏の快速電車や中京圏については211系のコピーが増備されていたに違い有りません。残念ながらJR東海は会社設立後、211系の改悪したコピー(すなわちロングシート車)を増備したためその後遺症が大きく残っていますが、それでも311系や313系など東京のセンスでは考えられない性能とアコモデーションを備えた車両が登場し、そしてあの名鉄を窮地に陥れたのは地域分割したメリットといえるでしょう。ましてや、関西圏に至っては新車投入を焦らず、JR西日本のこれからの有るべき姿を追求した221系という優れた車両、それに続く207系や223系による快速サービスによって、あの優良鉄道会社であった阪急を窮地に陥れたのは、分割民営化のたまものであり、国鉄のままでは決してなしえなかった成果といえるでしょう(関西圏は、JRの努力も大きいですが、阪神大震災に伴って従来の私鉄ユーザーがJRの良さに気付き、鞍替えしてしまったことも大きいです)。かつては117系6両編成でガラガラだった新快速電車が、今や223系12両編成で適正な輸送力を提供するようになっていることは、昔を知る人間からすると驚くべき事です。 このような分割民営化での成功例が強調される反面、分割民営化によって悪くなったの代表例が東海道・山陽新幹線ではないかと思います。東海道・山陽新幹線は名前こそ新大阪駅を分界点としていますが、旅客の流れも完全に新大阪駅で分かれているかと言えば決してそうではなく、山陽新幹線ゾーンの少なくとも福山あたりまでは、航空機の旅客が増えてきたとはいえまだまだ東京までの需要が多くあります。また、名古屋から新大阪を越えて乗車する人も多く、時間帯にもよるでしょうが、名古屋-京都間が最も込み合っているように感じます。以上のことから、新大阪駅を始点/終点とする利用が多いものの、それに負けないくらい東海道・山陽相互間の利用が多いことを伺わせています。 ところが、国鉄時代の末期から東海道・山陽新幹線を直通運転することにより、雪などの天災によってダイヤが大きく乱れることの対策として、新大阪駅で系統分割する傾向にありました。そのため、山陽新幹線各駅から東京方面に直通する列車が徐々に減り始めました。分割民営化後はJR東海/JR西日本の両社が、自社管内の利用が便利なように新大阪駅での系統分割が進んでしまったため、近年では各駅停車しか止まらない駅から東京方面に行く場合、岡山や新大阪で乗り換えが必ず必要になり、全体にスピードアップしたにもかかわらず国鉄時代より不便になった印象を与え、結果として山陽新幹線が苦戦する結果になっているように思います。新大阪での系統分割は、自社管内を優遇することにより自社運賃収入を確実に増やしたいという思惑があることも事実でしょうが、もう一つ大きな理由として東海道新幹線と山陽新幹線の間に大きな需要の格差があることが挙げられます。東海道新幹線の需要を考えると16両編成は必須条件ですが、山陽新幹線では明らかに供給過剰です。このため、東海道直通列車を除き山陽新幹線は4から8両の短い編成を頻繁に運転する形態をとったため、必然的にこのようになるのは仕方がないことです。もし、国鉄時代のように東海道・山陽新幹線が同一の経営で運営されていた場合であれば、山陽新幹線の東京直通と需要に見合った編成両数を両立するために、現在の東北新幹線のように8両編成を併結した16両編成を主体とし、新大阪でのぞみ編成とこだま編成に分割して山陽新幹線に直通する方法が考えられたと思われます。残念ながら、新大阪で分割されてしまったためJR東海は東海道新幹線を最優先にするためこのような案は実現せず、山陽新幹線の利用客はその不利益を被っているともいえ、分割民営化によって手放しに良くなったと言えないことは事実です。 もちろん、分割民営化によって両社が競争することによって300系や500系が生まれたのはまぎれもない事実ですし、700系やそれに続くN700系など、両社が共同で運行する姿勢が徐々に現れていることは喜ばしいことですが、東海道・山陽新幹線の両方が最も理想的な状態で運営されるのは将来的にも難しいのかも知れません。