11. 借金と前借り

先日、政府与党が北陸新幹線金沢延伸、北海道新幹線、長崎新幹線の着工に合意したとの報道がなされました。今や財政が火の車になり、社会保険や税などの負担を増やさざるを得ない状況で、様々な公共事業について見直しがされている中、整備新幹線が新たなる財源を得てスタートすることになったわけです。この新たな財源、なんとJR各社が将来支払う予定の既設新幹線譲渡収入を前借りする形になったとのこと。これにより、一般歳入以外の新たな資金が生まれたことになり、着工に至ったとのことです。国債の発行残高が巨額になり容易に国債が発行できない情勢の中、与党・自民党がひねり出した究極のワザとも言えます。歳入が増えない中、打出の小槌のよう金を生み出す自民党の錬金術には驚くばかりです。しかし、この前借り金は将来入るべき収入を担保に金を借りるわけですから、形を変えた赤字国債であることに何ら変わりません。この前借り方式を採用することによって、無から金が生まれたわけではないからです。 現在、国も地方も財政赤字の負担にあえいでいる状態です。特に、国がすすめた景気対策としての公共事業の地方負担分が増えたことにより、地方の財政状況は悪くなっています。このような中で在来線を経営分離し地方への負担の付け替えをすることにより新幹線建設という負担をしてまで、日本という国や地方は新幹線が必要なのでしょうか。 本来、狭軌によるネットワークは民間のJR各社に管理が移管されたとはいえ、その価値や役割を考えると国の財産の一部であることに変わりがありません。確かにローカル輸送だけを捉えると、地方のために経営する鉄道は地方が管理すればよいと言うことになりますが、新幹線に平行する在来線は地域間の貨物輸送にも使われており(例えば、北陸線であれば関西と信越、東北、北海道を結ぶ重要路線です)、仮に経営が苦しくなったからと言っても地方の第3セクターは廃止する権利を事実上持っていません。このような状況でありながら、地方に経営責任を押しつける国も無責任であると言えるし、それを了承してまで新幹線が欲しいという地方(の首領)もまた無責任であるといえます。そしてこの無責任のツケは結局、地方の住民であり地方経済であり、大きく見れば日本という国が負担する形になるのです。 特に自民党という政党は利益誘導をして地位を確保してきた政党でもあるため、これを転換し責任ある政策を打ち出すことは体質上無理があるのは百も承知です。この暴走をくい止めるのは有権者しかいないのですが、残念ながら新幹線を引っ張ってくるという甘い諌言を言われれば諸手をあげて喜んでしまうのは、ある意味地方の首領が都合の悪い部分を情報開示せず、有権者に判断させる隙を与えていないこともあるでしょう。そういった意味において、日本は民主主義国家ではないのかも知れません(ある意味、情報統制されているのは北朝鮮と変わらないとも言える)。 いずれにせよ、将来の収入を前借りしてまで新幹線を建設するのはあまりに無謀であり、負担を迫られる住民、あるいは国民全体がその必要性を議論する必要があるのではないでしょうか。本来であれば将来どういった交通体系を機軸とし、あるべき姿に向かうためのプロセスとして行っているのであれば、将来のために投資をすることも必要であると思います。例えば、「新幹線鉄道を国内輸送の機軸にするためのネットワークを構築し、旅客輸送だけでなく貨物輸送も担うことにより、全国各地へ鉄道による高速輸送を実現し、トラックからのモーダルシフトを促進することによる二酸化炭素排出量の削減を図る。」や、少なくとも「日本の国家全体という視点から見た経済発展を促進するために整備新幹線によるネットワークが必要である」などといった重要な問題を解決する手段としての整備新幹線であれば、実行するに値すると思います。しかし、「新幹線がないから、その地域に観光客が来ない」とか「新幹線がないからその地域の経済が沈滞している」、あるいは「単に新幹線が余所の地域も持っているから、自分たちも欲しい」という程度の理由で誘致する場合、投資に対する効果が不十分すぎると思います。この費用対効果の算出方法はデータの集計の仕方によって、如何様にも変えることが可能なため、建設を推進する立場で集計したものに対して、実際に恩恵を受けるはずの人の感想が異なるのはよくある話です。確かに新幹線が無い地域から見ると、新幹線が走っている地域がうらやましく見え、自分たちも欲しいなぁと思う気持ちも分かりますし、あったほうが便利であることは間違いありません。しかし、その受ける恩恵とそのために発生する負担を天秤に掛けることができれば、新幹線の本当の必要性というものが見えてくるのではないかと思います。絶対作る必要のあるものであれば、作らないといけません。しかし、あった方がいいけれどそれによって平行在来線が分離され高額運賃で気軽に使えなくなるとか、目先に支払う税金だでけはなく将来負担すべき借金も考慮した上で増加する税負担を考慮すべきではないかと思います。重い負担を背負ってでも新幹線を誘致する価値があると大多数の人が判断して、はじめて新幹線を誘致する価値があると判断できると思います。